2度目のアンコールワット


今年もあと10日足らず。街路樹は葉を落とし、季節風が裸のこずえを鳴らして吹く。そんな光景が似合いの時節だが、朝から風もなく雲ひとつない真っ青な空。これが、冬至の日の天気とは全く思えない。冬至を過ぎれば師走の日々はもうまっしぐらに、大晦日へと急ぐ。ちょっと、待ってくれ!。


学生時代に読んだ本を半世紀以上経った今読み返すと、その間に培った人生経験という肥やしが効いて半世紀前とは違った感慨がある。それと同じように半年前に接したアンコール遺跡と今回接したそれには、もっと奥深いロマンを感じた。半年の間に得た肥やしが効いたからだ。NHKスペシャル「 密林に消えた謎の大都市 〜カンボジア アンコール遺跡群〜 」が肥やしを施してくれた。確か、今年の9月頃だったと思う。


9世紀からおよそ600年にわたって栄えたアンコール王朝は、世界最大の石造寺院「アンコール・ワット」で知られ、その一帯は世界遺産にも登録されている。しかし、どんな王朝でどんな文明が栄えていたのか、真相は謎に包まれてきた。当時の記録がまったくない上に、近年の内戦で埋められた地雷が研究調査を阻んできたからである。



同番組では最新の科学技術を駆使した研究でその謎が、徐々に解き明かされる様子を伝えている。密林の奥地の世界有数の巨大都市の存在。そこには、高度な水利システムがあり、世界との交易ネットワークの実態も見えてきた。そこには争いを避け、共存してゆこうと知恵を絞った人々がいた。 空前の繁栄を誇り、密林に消えていった謎の文明の真の姿を伝えていた。


2度目の訪問は前述のような肥やしをNHKから施してもらっての訪問だった。9世紀から15世紀にかけてインドシナ一帯を制圧したクメール王朝の首都に関連する遺跡群がアンコール遺跡群と云われる。その代表的な遺跡が「アンコールワット」と「アンコールトム」。今から150年ほど前、日本の年代で云えば明治維新の頃までその存在すら知られていなかったそうだ。いづれシェムリアップの中心から7kmほどの距離にある。



アンコールワットヒンドゥー教、アンクルトムは大乗仏教の影響が強い。アンコールはサンスクリット語で「町・都城」をワットは「寺院」をアンコールトムは「大きな町」を表すそうだ。顔写真付入場パスポートは点在する各遺跡共通。3日間通用で40ドル。購入時に顔写真を撮る。帰国の際にA4判の訪問証明書をくれる。(半年前の訪問時にはなかった)




学術的な知識のない我々にとって、さまざまな自然条件によって表情が変わるアンコールワットを見るのもひとつの見方だろう。例えば、聖池に映る逆さアンコールワット(一番上の写真)とか夕日に映えるプレループ遺跡(右の写真)というように。回廊のレリーフは実に表情豊かで、絵巻物の世界だ。





王朝最後の栄華を誇った都市の跡がアンコールトム。12〜13世紀にかけて創建されたと云われている。総延長12kmにも及ぶ濠と城壁に囲まれている。写真はアンコールトム5つの門の中で最も美しいと云われている南大門。四面像をてっぺんに配し、高さ23m。車1台が通るのがやっとの幅のこの門を車が通行できるようになっているので、平日にもかかわらず大渋滞。


王朝が滅んで4百年も5百年も誰に知られることもなく廃墟となっていたものが、偶然150年ほど前に発見されたこと自体謎である上、紙のない時代で古文書が残っているわけでもない。謎が多いだけに、遺跡を見る者にいろいろと想像力を掻き立てさせてくれるアンコールワットだ。


そうした謎が現代の科学技術によって少しずつ解き明かされて行き、遺跡を見る者にますますロマンを掻き立たせるのだ。米作に必要な肥沃な土地と水があって、強力な為政者による平和維持があってこそこれらの遺跡に見られるような文明がさかえたのだ。NHKスペシャルの肥やしが効いて、2度目の訪問ではこんな感想をカキコできた。それにしても、アンコールワットの65mもある石の塔をどうやって積み上げたのだろうか?