ネット断食


暑さ寒さも彼岸まで、と昔から云うけれど彼岸の中日を挟んで1週間も真夏日が続く。車で5分ほど、豊田の逢妻川堤防の彼岸花はウソはつかない。彼岸の入り頃から咲き始めいま燃えるような秋を演出している。


日の出の時刻に訪れた。川の西岸に徐々に日が差し込んで、生育が遅く数少ない彼岸花が光り輝き始めた。当然のことながら、東岸は日陰のままだ。「夕日に輝く東岸は、それはそれは美しいよ。夕方もういっぺん写しにいりゃあよ」とウォーキングのおじさんが教えてくれた。


東側の此岸は花が多いが、日陰。西側の彼岸はこれからが花の見ごろ明るく開けている。彼岸、西方浄土がおいでおいでと招いているのではないかと錯覚をおこすような光景だ。



半世紀も前の学生時代を思い起こしてみる。毎日学校で顔をあわせる友人は別として当時、アパートや下宿の部屋に電話を引いている学生など一人もいなかった。同郷の友人達やガールフレンドと携帯電話などなくても今と何ひとつ変わらずに連絡を取り合っていたような気がする。どうやって、連絡をとりあっていたか思い出せない。


現役時代、地下鉄で名古屋に通勤していた当時の行き帰りの電車の中は恰好の読書の場であった。自分だけでなくそういう人が多かった。最近はどうだ。当然のことながら、飲み会の帰りなどに乗る電車は読書をしている人よりスマホを操作している人が圧倒的に多い。


いまや老人から子供までメールを使い、ネットの交流サイトも全盛だ。いつでも誰とでもつながりあえる時代だ。何が変わっただろう? 昔はひとつ、ひとつの連絡の取り方にスピード感こそなかったが重みがあっただろう。いまはスマホ片手に広く浅く友達とのつながりばかり意識して、その関係維持に神経をすり減らす若者が少なくない。


                     

先日の新聞に文科省が「ネット断食」なる試みを来年度から始めると出ていた。パソコンやスマホが使えない場所で集団生活をして依存を断ち切る取り組みだそうだ。せいぜい1週間ほどの合宿と云うから効果のほどはどうだろう。タイムマシンがあったら、若者を半世紀前まで連れて行き本当の断食を体験させてやれるのだが・・・。