たった一言の価値


5月になった。2日続きの雨も上がったが、五月晴れとは行かずお昼過ぎにはスコールに見舞われるほど不安定な天気だ。


「くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる」と正岡子規が詠ったように、つい半月ほど前には紅色の若芽だったお隣さんやウチのバラも蕾が膨らんできた。咲いたものもチラホラと目についてきた。


名古屋に出かける電車の中でのふと目にした光景。車椅子に乗った障がいを持つ人がヘルパーのおばさんに介助されながら乗って来た。車椅子を安全な位置につけようとすると、座っている女性客の旅行カバンが邪魔なようで、ヘルパーさんが困っている様子。女性客はそのことに気づき笑顔でカバンを動かした。そして、途中の駅で下車する時、「お元気で。体調に気をつけてください」と言葉をかけていた。車椅子の人とヘルパーさんはにこにこ顔で応じていた。



「お元気で。体調に気をつけてください」オジさんには、この台詞が、なかなか出ない。席を譲ったりヘルプしたりはしても、ついつい周りの人たちの目が気になってしまい、声が出ない。(なんだあの人、エエカッコして)と、思われているんじゃないかと思ったりして。


「行動」も大切だが、ほんの一言にも大きな価値がある。「たった一言」が人の心を優しくする。わかっちゃ いるけど できないんだナ〜。オジさんには。