列車がフェリーでバルト海を渡る

スイスの山中の峠越えをするのに観光バスごと貨車に乗り、機関車に引っ張られてトンネルをくぐるカートレインやら、列車ごとフェリーに乗って海峡を渡りドイツからデンマークへと国境を越えるなど、乗り物好きにとっては欧州の旅はわくわく感いっぱいだ。



4年前のスイス旅行のときのこと。ベルン方面から、マッターホルンの麓ツェルマットに向かう途中にある全長約15kmのレッチベルクトンネルは自動車や徒歩での通過ができない。レッチベルク鉄道のカートレインが唯一の手段なのだ。トンネルの北側の駅から南側の駅の間をカートレインが運行されている。


所要時間約20分。バスの貨車への出し入れは神業的。左右10cmくらいしか隙間がない。無事にバスの積み卸ができたときには車内では一斉に安堵の拍手で客の一体感が感じられたことが忘れられない。



フランスの主要都市間や近隣諸国間を結ぶ国際高速列車がTGVならば、ドイツのそれはICEという。朝7時にベルリン中央駅を出発したICE1616は9時にはハンブルグに到着する。ここで、ICE33に乗り換えコペンハーゲンに向かう。列車の色も形もICE1616と全く同じ。音を聞くとどうもICE33は気動車だ。なぜ、気動車か後でわかった。



ドイツ側のプットガルデン駅からデンマーク側のロービュ駅までフェリーに乗って移動するのだ。その間約1時間。電車ではフェリーに乗り込めないのだ。ロービュ駅でまたレールに乗った列車は、コペンハーゲンをめざす。9時半にハンブルグを出発し午後2時15分にコペンハーゲンに到着。



日本ではちょっと考えられないことがあった。列車がフェリーに乗り込む際に、運転席を開放し見学させてくれるのだ。そして、フェリーの中まで入って行く一部始終を見せてくれる。マニアにとってはたまらないサービスだ。


フェリーに乗っている時間がちょうどランチタイム。乗客は列車から降りて船内のラウンジでバルト海を眺めながらの食事だ。


我々4人以外に日本人はひとりもいない。我ら異邦人と悦に入っているが、まわりの彼らからはどうせ、チャイニーズかコリヤンかと思われているだろうに・・・。



”電キチ”ことリーダーのFの言によれば、日本でも洞爺丸事故の起きる前までの青函連絡船では列車ごと船に乗せて海を渡っていたそうだ。半世紀以上前のことだ。


バスは列車に乗り、列車はフェリーに乗る。なんとも、日本人の常識を超えた移動方法だ。列車に乗るために欧州まで旅に出る。欧州には旅の目的そのものになる列車がある。ハンブルグコペンハーゲン行きICEもまさにその列車のひとつだった。