「暮らしの手帖」商品テスト


列島に横たわった秋雨前線のおかげで朝からしとしと雨が降ったりやんだり。庭や畑やカミさんに気兼ねなく麻雀に打ち込める。NHK朝の連ドラ「とと姉ちゃん」、スタート時はつまらん、つまらんと云っていたものの、雑誌「暮らしの手帖」が順調に売り上げを伸ばし始めてからは大変興味深く見ている毎日だ。本屋の倅で、この雑誌は広告がなく、商品テストが売りであることは知っていた。学生時代、夏休みや春休みに店の手伝いでこの雑誌をよく配達もした。


それだけに、周囲の人達以上にこの雑誌に愛着があり、ドラマにも興味を持つようになった。商品テストが消費者の反響を呼んだのはまちがいない。配達をしていてもそんな声を聞くこともあった記憶がある。ドラマではエキサイティングにするために商品テストに横やりが入り、ついに公開テストにする筋立てになっている。実際はどうだったか興味が沸く。



みよし市の図書館に「暮らしの手帖」(昭和21年創刊)の昭和34年52号以降の30冊近いバックナンバーがあることを新聞で知った。日曜日に行った。たまたま手にしたのが昭和38年(1963)70号。この号の商品テストは扇風機だった。この年、クマさんは大学3年。日本で最初の高速道路が名神栗東〜尼崎間で開通した。ケネディ米大統領が暗殺された。そんな年だった。


暮らしの手帖に関心を持っていても、商品テストをどのようにして、どのような評価の仕方をしていたかまでは憶えていない。この扇風機のテストもドラマの中でやっていたアイロンやトースターと同様実に細かい所までやっていた。そして、評価も遠慮なくズバリと指摘していた。




各種テストの一例。風速1mの風がどこまで届くか。その結果の表が左写真。こんな評価をしている。《8帖の部屋の一方の隅に扇風機を置いて反対の隅に風がとどくのは三菱と富士だけ。サンヨーは4帖半が精いっぱい。あとの6種のうち6帖で届くのはナショナル、NEC、シャープ。》


《テストの結果をまとめてみると、よかったのはナショナル、お買い得はシャープ、惜しいのは三菱と富士》ざっと、こんな調子だ。


戦後の日本が高度成長期に差し掛かったのが、この頃だ。産業界を背負って立つ人たちは、我々が日本の成長を担っているのだという自負心を持っていたと思う。それを、机に向かっているだけの者が上から目線で偉そうに商品のランク付けをして雑誌に掲載するなんていうことには反発も相当あったのではないかと思う。


当時の政策はすべて供給者側寄りで、消費者運動なんかなかった時代だ。その上、日本人の心のどこかに、武士道精神の惻隠の情(そくいんのじょう)があって、相手を思いやる心があるものだ。インチキ品は別として、一生懸命作った商品に何の権限があってAだCだなどと云える。云わないのが”武士の情け”だ。そんな風潮もあっただろう。


こうしたクマさんの考えに対する消費者側の考えはドラマの中でとと姉ちゃんも花山編集長も何度も繰り返し主張しているので省くが、実在した大橋鎮子社長(とと姉ちゃん花森安治編集長(花山編集長)のコンビがあの時代にこれだけのことをよくやってのけ、70年経った今でもそれを引き継いでいることは大したものだ。