高速バスと北陸線ローカル列車の旅Ⅲ


北陸線ローカルは敦賀・福井方面から金沢までは従来通りJR西が運営しているが、金沢から東へ石川県内は第三セクターのIRいしかわ鉄道、富山県内はあいの風とやま鉄道が運営している。北陸新幹線金沢開業の昨年3月から、そのように経営分離されたのだ。                                      


したがって、厳密にいうと福井〜高岡間乗ったローカル線はJR西、IRいしかわ、あいの風とやまの3社のローカル列車ということだ。だからといって、会社が変わったからといって電車も乗り換える必要はない。今まで通りの直通だ。こうしてみると、「そこのけ、そこのけ新幹線が通る」と地元自治体やローカル線利用者はのけ者扱いされているような気がする。


JR西の北陸ローカルだったら、それ自体赤字でも京阪神地区のドル箱で赤字をカバーしてくれるから運賃値上げはそう簡単にされない。第三セクターになれば、地元自治体が人質に取られたようなもので、地域住民のためには赤字だからといって簡単に廃止はできず、税金を使って赤字を補てんして行かねばならない。そんな構図ではないだろうか?



金沢から高岡までおよそ40分。高岡の駅は在来線と新幹線は別だ。およそ1.5km離れている。どんな事情があったか知らないが、どうして一緒にできなかったものだろうか?両駅間に10分間隔でシャトルバスが走っている。在来線の高岡駅から加越能バスでおよそ40分で氷見だ。


「加越能」というのは文字通り加賀、越中能登の頭をとったものだ。この会社の前身は加越能鉄道で昭和20年代後半にまだ電化されていなかった北陸線に対抗して富山・高岡・金沢間と高岡・七尾間に電車を走らせる構想で発足しし、富山・金沢間は免許が下りたが、モータリゼイションの進展で結局は幻に終わったという歴史をもつ会社だという。



氷見まで行く目的は「かぶす汁」だ。「かぶす」とは、氷見地方の漁師言葉で、分け前のことを指し、漁の後に獲ったばかりの魚をぶつ切りにして、船上の鍋に放り込み、ぐつぐつと豪快に煮て仕上げる味噌汁を「かぶす汁」というそうだ。濃厚な魚介ダシが旨味の特徴であり、氷見ならではの一杯だ。


何年か前、氷見の魚市場の2階の食堂で食べた「かぶす汁」はホンマモンに近いものだった。植物に例えるなら自生種に近いものだった記憶だ。去年、今年と氷見の番屋街という観光施設で食べるそれは、やはり一般向けの園芸種でホンマモンとはちょっと違う気がした。写真のものはスズキのあらとカニが主だった。市場からそのまま食材にするものと、流通ルートを通してするものの差だろう。



氷見から名古屋行きの加越能バス東海北陸道名古屋高速経由で241kmを4時間20分かかる。運賃は土日祭日が3500円、土日祭前日が3300円,その他が3000円と繁閑による差をつけている。忙しかろうが、ヒマだろうが走行距離に対する運賃といった一昔前の鉄道屋系の硬直した発想が拭い去られていることは歓迎だ。全国の高速バス運賃の主流はこうした方式になっているようだ。


11月も下旬のこの時期の平日だからと予約もしないで氷見から乗車しようとしたら、運転手から満席だから2時間後の次発にしてくれと云われてしまった。予備席がひとつくらいあるはずだから、何とかしてくれと頼んでやっと乗れた。去年名古屋から高岡・氷見に乗った時も20数人で満席に近かった。繁盛している秘密はどこにあるだろうか?



北陸道経由の名古屋・金沢線1日10往復 247km 4時間 4180円 4列シート。東海北陸道経由の名古屋・高岡・氷見線1日6往復、241km 4時間20分 3000〜3500円 独立3列シート。移動人口の数からしても金沢線の方が高岡・氷見線より営業条件は数段上だろう。


両線の1日平均の乗車人数がわからないから何とも言えないが、かつて数往復したことのある金沢線で満員だったことは一度もない。大雑把に考えると、金沢線は余り営業努力をしているという跡が見えない。高岡・氷見線の方は、北陸新幹線開業により、ローカル列車が不便になったゆえに砺波・高岡と名古屋の行き来が不便になったことを好機ととらえた営業をしているのがみられる。


運賃の設定の仕方自体に努力の跡が見られる。金沢線の4180円なんていうのは、いかにも鉄道屋の発想だ。ヒマなときには安くして誘客し、繁忙期には少々高くしても客は来る。いかにも商売人の発想だ。夜行バスだと、独立三列シートは普通だが、昼行でもゆったり感を売り物にしている。


車窓の景色を眺めながら、こんなことを推理していると新聞や雑誌を読んだり、居眠りすることも忘れてしまう。金沢のカニもうまかった。酒もうまかった。高速バスとローカル列車の旅もいろいろ考えさせてくれた。