帰るのは そこ晩秋の 大きな木


今週の水・木と金沢に行ってきた。恒例の金沢の会社のOB会だ。例年だと11月の3、4週目に開かれるが、今年に限って5週目になった。これが幸いした。例年だと紅葉がほゞ終わってしまっている。今年はいずこも紅葉が遅く、金沢城公園などは、今が盛りだ。燃えるような紅葉、色づいた葉がとめどなく舞い散る黄落の美しさが印象的だった。


金沢の地を離れてやがて半世紀になる。これほどの歳月が経ち、風邪も完治してないのに、それを押してでも行きたくなる金沢に惹かれるのは、仲間が懐かしいからだろう。名古屋から出向した者10名ほどが同じアパートで暮らして家族ぐるみでの付き合いもあったからだろう。金沢は第二の故郷と思っている所以だ。



宴会のとき、その料亭のお女将がある一句を引き合いに出して遠方からの出席者を労ってくれた。「帰るのは そこ晩秋の 大きな木」 坪内稔典。 帰って行く(くる)場所は心の拠り所。安心してすべてを受け入れてくれるものの象徴が晩秋の大きな木でもあり、金沢という街でもあり、料亭「せい月」でもある。「ようこそ、おいでまし」と。


昼過ぎに金沢に到着し、会合まで時間があったので、尾山神社経由玉泉院丸口から金沢城公園に入り、散策。黒門口から出て近江町市場の中を通って、武蔵が辻角のホテルへと向かった。近江町市場の鮮魚店は、時節柄カニノドグロのオンパレードだ。半世紀前金沢にいた頃と比べるとカニの値段は、一桁違う。大きいズワイは3〜5千円だったものが、いまや3〜5万円。小さいコウバコの方では、90〜100円だったものが、900〜1000円で売り出されている。



ノドグロなんて金沢にいたころ食べたことがあるのか記憶にない。近江町市場に並んでいたのかどうかも記憶がない。地元の連中も昔はあんまり見向きもしなかった魚だったと異口同音にいう。それが、今では超高級魚にランクアップ。養殖していないのも魅力のひとつだろう。特に新潟県辺りから長崎県辺りまでの日本海側で多く漁獲されている。晩秋から冬が最も美味しいという。
                                     


底引き網で獲ったものはキロ2千円以上、釣りで大型なら1万円以上で市場に並ぶそうだ。近江町市場では活魚より一夜干しの干物がよく目立つ。3枚で2千円くらいだ。これだけ売れっ子のノドグロだから、その名を冠した商品が実に多い。のどぐろ笹漬け、のどぐろ煮干し、のどぐろ炙り刺しセット、のどぐろ昆布、のどぐろめしの素、のどぐろパイと実に多い。



まさに、観光バスが立ち寄る各地の魚センターと化してしまった感の近江町市場だ。金沢に住んでいたころは、カミさん子どもを自転車に乗せて近江町市場に買い物に行っていたという。この半世紀の間に庶民の市場から観光客のお土産センターに業態が変わってしまった。この市場のすぐ裏に住むM君、観光バスの駐車場から市場へ行き来する観光客が大声でうるさくてしょうがない。観光公害だと嘆いていた。